賃金・年収、税、そして共同体・国 と生産性 (1)
- makiyama@allgovern.com
- 3月16日
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◎脱線 日々コラム5 何をしなければならないのか 何ができるのか
一人の国民としてゼロから考えてみる。
賃金・年収、税、そして共同体・国
これらに関わる課題を認識し必要な解決を図るために一つ一つを見ていきながら検討していくことを、この日々コラムで行っていきます。まずは、知ることから。そののちに課題と解とが結び付けば、政策として政策コラムでの提示にまで至りたいと思います。
以下に内閣府HPより引用の賃金・物価・生産性の関連性を示した図を参照します。

(1)消費者物価の上昇
今、物価上昇に追いつけない賃金が社会問題になっています。生産量が足りているはずの米が2倍ともなるような事態はこれまで想定されていない、あるいは俄かには受け入れがたい家計負担の出現とも言えます。確かに生産者にとって高値は好ましく、一旦上がれば誰かが価格破壊をしなければ下げるのは難しいとも思われ、この先も続きそうなこのような値上がりにはついていけないと悲観的になる、というところでしょう。
本来、安く放出されるはずの備蓄米が結局高値を見据える「入札」によってしまうところも何とも皮肉に見えます。これは、国民の税で賄っているわけですから、国民が困ったときには極力安価に手渡されるべきものです。まずは、今の仕組みでそうできなければそうできるような仕組みへの変更が必要であると考えられます。備蓄米はそのときどきの放出が必要とされる多様な要因に対して、縦横無尽に活用されるような運営でなければ、と思われるのです。

身近な出来事であり驚愕する米の値段、異常な値上がりについては、JAなど従来の経路に届かずに米が生産者から高値で流れていて、あるいは買い占めが要因であるか否かに拘わらず、必要度の髙い物品、特に食糧・主食となれば、価格が吊り上げられるとそれに抗うことが難しくなるでしょう。一旦、高くなったものは容易に下がらない、既に買い付けた額が高くなっているのであれば必然的に小売値もそうなります。
一方でこれまで、生産者において合理的な米生産の対価が得られていなかった、という評価もみられます。そうすると、生産者も国民、消費者も国民、となれば私たちの国において、そもそも米の価格はどうあるべきか、と考えなければなりません。つまり、主要な食糧である米の持続可能な価格の姿はどうなのか、となります。
そうした状況をみると、結局のところ食糧安全保障、国民の生命に直結する食のあり方・適切な供給を守ることからすれば、残念ながら、米については、一定の統制力を働かせるしかなさそうです。
これは仮の案にすぎませんが、例えば「米価調整委員会」なるものを設置して、生産者・JAと消費者・行政あるいは加えて小売り業者などが参加して、主要な品目についての米の価格の上限を決め、それ以上で売りたい場合には、利益に応じた米の流通に特化した税率を課すなど仕組みの制度化しかなさそうです。つまり米は歴史的にも日本人にとって・国民にとって、生命・生活の根幹でもあったわけで(カロリーベースで1960年には48.3%、2021年には21.3%、農林水産省・食糧需給表、「フードマイレージ資料室」https://food-mileage.jpを参照)、付加価値の高い米の高額な自由価格を否定はしないものの、まずは日本人の生存を支える米において、応能負担と自由市場の温存、価格の抑制などを共存させる施策の策定が必要と考えられます。
なお、ここで生じた税収はコメ生産者の育成や、不作などで食量の高騰があった場合に消費者を支援する原資ともなれば良いと思います。
いずれにしても米生産においても生産性の向上が生産・消費の双方を満足させる鍵になるということはありそうです。
「こめペディア」https://komepedia.jp/ のサイトでは歴史と今後についての見通しが記されています。概要は以下のとおりです。(『』内は夏目幸明氏による文の内容を参照して簡略に改変して示しました)
『米の価格の下がり過ぎは生産者にダメージを与え、買えないほどの高騰も困ることから昔から米価は調整されてきました。奈良時代には国が「常平倉(じようへいそう)」という倉を建て豊作の時は米を貯め、凶作なら蓄えた米を放出して人々の暮らしを安定させていたたといいます。政府の介入はその後にも続き、第二次世界大戦中の1942年、農業の担い手が戦争に駆り出されて米不足が深刻になり、国は「食糧管理制度」を定めました。この時、政府は生産者から米を強制的に買い上げ、配給制にしました。
しかし終戦後、戦地から帰還者たちが腰を据えて農業に打ち込み始めた1950年代から、状況は逆転しはじめ、米の増産が続き、1951年に米が配給制でなくなると、この頃から米が余るようになってきました。すると食糧管理制度は“米の生産者を価格の下落から守る制度”へと姿を変えていき、国は農業者が困らない値段で米を買い取り、経済状態が悪い家庭も買える値段で売りました。国は当然、赤字となり、結果、60年代には減反政策が始まりました。ところが、それでも米の在庫は増えていき、当時、国の財政を逼迫させていた「お米」と「国鉄」と「健康保険」とが「赤字の3K」とも呼ばれいました。
ここで政府は、方針転換をして1960年代末頃から米価を市場にゆだね始めました。まず、生産者が政府を経由せずに米を売ることができるようになり、政府が売る米が「政府管理米(政府米)」、生産者が販売する米は「自主流通米」と呼ばれたのはこの頃で、自主流通米の価格は「自主流通米価格形成センター」で行われる入札によって決められました。
その後、次第に自主流通米の割合が増えて行き、1990年頃には流通する米のうち、政府管理米の割合は2割を切っていました。そして1995年に「食糧管理制度」は廃止され「食糧法」が施行され、これにより、農業者は米を自由に販売でき、価格は市場原理に任されることになったのです。
これには別の要因として、日本の米における保護貿易主義に対する輸入圧力に対し、日本政府は自由に米を流通させ、農業者の競争力を高める狙いもあったといわれています。
とはいえ米価の調整は今も続いていて、食糧管理制度の廃止後も、米価が安くなると農水省が緊急措置としてお米を買い上げるなど、極端な値段がついた時は調整しています。
また、価格には目安があります。仮に米をネット販売するなら、値付けは生産者次第となるはず。しかし現実的には、米の流通のおよそ5割を扱うJAグループや経済農業組合連合会が県単位で決める「概算金」や「相対取引価格」が価格の目安になっているのです。
概算金は、簡単に言えば「予想価格」兼「前払い金」です。各地の農協や経済連は、前年の米がどれだけ残っているかなども計算に入れ、米の価格をいったん「概算金」として決め、生産者から米を集荷した時に代金として支払います。「相対取引価格」は実際に取引された価格を指します。
各地の農協や経済連は、生産者から集荷した米を卸売業者に出荷します。この時、買い手と交渉し、お米の銘柄ごとに価格を決めます。これが「相対取引価格」です。「相対取引価格」が決まると、各地の農協や経済連は生産者に対し、「概算金」と「相対取引価格」の差額を支払います。実際の販売価格である「相対取引価格」から、販売にかかった経費と、既に渡している「概算金」を引いた金額を支払うのです。
このJAグループや経済連が決める「概算金」や「相対取引価格」(なかでも「概算金」)が、現実的には米の価格の目安になるのです。そこにコントロール機能があるといえます。
ちなみに令和4年、2022年現在は米の在庫が積み上がっている状況です。
例えば全農青森県本部は、ブランド米「つがるロマン」の「概算金」を60キロあたり8200円、「まっしぐら」を60キロあたり8000円と、前年産に比べ3400円も値下げしています。全国でも「概算金」は2~3割下がっており、生産者は「大規模農家でも経営を維持できるギリギリのライン」「銘柄米が1万円を切るようでは生産を続けられない」と悲鳴をあげています。「日本の農業を維持する」という観点での施策が望まれる段階で、政府やJAグループの対応が注目されます。』
今回、この「概算金」が関わるJAを経由しない米が多く存在していることが分かっています。生産者も、普段取引のない卸・仲買業者のより高い額面の提示に対応して米を売却している事例がみられているようです。
NHKによると去年の米の収穫量679万トン(前年比+18万トン)に対し、主な集荷業者が買い求めた米は216万トンと―21万トンとなり、通常の米の取引相手以外の卸業者に渡ったことが示唆されています。

(農林水産省「米をめぐる状況」2024年11月)
こうした状況下、農林水産省は2030年のコメの輸出を現状の約8倍へ大幅に引き上げる方針を示したといわれます。輸出分の生産を拡大し、国内で不足した際には国内流通にも活用できるよう、生産基盤を強化する狙いであるとされます。長粒種米が需要の大半を占める海外で日本の短粒種米は売れにくいといった理由から国は輸出拡大に消極的で、これまで需要の先細りに合わせ生産を絞る政策を続けてきたものの、昨夏から続く米騒動を受けて方針転換したようだといわれています。(産経新聞)

(農林水産省「米をめぐる状況」2024年11月)
このように見てくると、日本の食糧でカロリーベースで37%、生産額で66%をも占める(平成30年、農林水産省)米の政策の今後が重要であることは間違いありません。
そして、ここでの課題も上記のとおり、生産性の向上です。農水大臣によれば、60キロ当たりの生産コストを、現在の1万1350円から9500円程度まで下げられれば、「国際市場で戦っていける」と分析しており、すでに一部の国内農家で成功事例があるとして、「それを横展開する」ことでコスト削減が図れるとみているといわれています。

(農林水産省「米をめぐる状況」2024年11月)
農業・米作においても「規模の効果」がポイントになりそうで、すなわち、休耕地も活用し農地を統合して適切な後継者が引き継ぐことが重要と思われ、そのようなコーディネートが進められることが期待されると考えられます。そして行く手に立ちはだかる現実に存在する諸課題を可視化し、解決への道を探ることになると思われます。
食糧安全保障・自給率向上・農業政策は適宜話題に取り上げるとして、ここでは、賃金と物価・生産性の問題に話を戻します。
さて、物価が上がり、賃金が増えない、というとき、統計的には大きな格差があることが分かります。中小企業庁の資料を引用しながら状況をみていきます。
(1)業種・企業規模によって生産性には大きな差異があり、いずれの業種においても大企業の生産性は良い傾向にある。
次に示したのは内閣府による、賃金・物価上昇率と生産性に関連したグラフです。

大企業と中小企業とでは生産性がおよそ2倍程度の差がみられます。極論すれば大企業では2倍の賃金をもらえる余地がある、ともいえます。
ここでいう大企業の定義は図表ごとに示されています。一般的定義のない「大企業」については統計ごとに「大企業」の定義は異なることもあり、図表ごとの確認が必要です。
他方、中小企業については以下のとおりの原則的な定義があります。つまり、以下の中小企業の定義に当てはまらないより大きな企業、ということでもあります。
業種分類 中小企業基本法の定義 (中小企業庁)
◎製造業その他 資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社又は
常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人
◎卸売業 資本金の額又は出資の総額が1億円以下の会社又は
常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人
◎小売業 資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は
常時使用する従業員の数が50人以下の会社及び個人
◎サービス業 資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は
常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人
図表において金額で表されている「労働生産性」は「付加価値額」を「投入された労働量」で割った数字で、儲けの額を労働量で割って一人当たりの儲け額(付加価値)で示した、といえます。
企業規模別に従業員一人当たり付加価値額(労働生産性)の推移を示したものが以下の図表です。(中小企業庁・2022年版白書から)
「労働生産性の算出に当たっては、厳密には分母を「労働投入量」(従業員数×労働時間)とする必要があるがデータ取得の制約などから、分母に「従業員数」を用いている」とされるものです。

(2)同じ区分の企業間においても企業規模により高生産性・低生産性の格差があり、かつ、企業規模のみではない高生産性・低生産性の格差がある。
企業規模別に上位10%、中央値、下位10%の労働生産性の水準を示された統計をみると、いずれの区分においても企業規模が大きくなるにつれて、労働生産性が高くなっていて、注目すべき点として、中小企業の上位10%の水準は大企業の中央値を上回っており、中小企業の中にも高い労働生産性の企業が一定程度存在している点です。 反対に、大企業の下位10%の水準は中小企業の中央値を下回っており、企業規模は大きいが労働生産性の低い企業も存在していることを示しており、生産性は、単に規模のみではなく、同じ規模の中でも較差が存在することがわかります。

(3)業種によらず規模が大きいほど生産性は高いが、業種間の格差も大きい。
図は、企業規模別、業種別に労働生産性の中央値を比較されたもので、これを見ると業種にかかわらず企業規模が大きくなるにつれて労働生産性が高くなることがわかると同時に、業種間の格差も大きいことが分かります。

図は、大企業と中小企業の労働生産性の差分を用いて、労働生産性の規模間格差が業種別に示されたものです。これを見ると、「建設業」や「情報通信業」、「卸売業」では大企業と中小企業の労働生産性の格差が大きく、一方で、「小売業」や「宿泊業, 飲食サービス業」、「生活関連サービス業, 娯楽業」では、大企業も含め業種全体での労働生産性が低いこともあり、企業規模間の格差は比較的小さいといえます。

(4)国際比較では先進国の中で日本の生産性は高いとはいえない。
図は、我が国の労働生産性について国際比較したものです。日本の労働生産性については、OECD加盟国38か国中28位とOECD平均を下回り、首位のアイルランドの約4割弱程度の水準です。

国際比較の点では、スイスのビジネススクールの国際経営開発研究所(IMD)が作成した世界67か国ランキングで日本はデジタル競争力で31位という結果(経済指標競争力38位)。この内容については追って詳しく取り上げたいと思います。ちなみに2024年 1位シンガポール、2位スイス、3位デンマーク、4位アメリカ、5位スウェーデン、6位韓国、7位香港、8位オランダ、9位台湾、10位ノルウェーなどの順となっています。なお、日本の前後では30位バーレーン、32位チェコといった顔ぶれでした。
同ランキングは67カ国・地域を対象に、各国・地域の競争力について、「経済パフォーマンス」「政府の効率性」「ビジネスの効率性」「インフラ」の4カテゴリー(合計20項目)の336の指標でスコア付けしていて、評価基準のうち3分の2が測定可能な数値データを、3分の1が企業幹部などへの調査回答を基にしているとされていて、ランキング発表が開始されたのは1989年です。(IMD, JETRO)
以上、規模、業種、国ごとに、生産性の大きな違いがあることがわかりましたが、さて、賃金・年収を高めるためには、必然的に生産性を高めることが必要となります。
ここまでは周知のこと、当然の帰結かもしれません。ただ、先に進むためには、そもそも歳入・歳出バランスにおいて、借金を積み増してきた政府では応能負担での歳入の確保と歳出削減・見直しとが不可欠であり、単純な減税・国からの歳出支援では、持続的な、国家の存続と国民の生活水準の保持とを両立できなくなってしまうと懸念されます。そのことを踏まえて、生産性の向上による十分な年収の確保と国の歳入の確保との両立、そのような解へ一歩一歩近づくような、施策を見極める試みをこの広場で行っていきたいと思います。
そのような状況にあることを私たち国民で広く共有して、知恵を出していくことが必要になると思います。
(上記図表は経済産業省中小企業庁の白書から転載)
経済産業省中小企業庁ウェブサイト(https://www.chusho.meti.go.jp/)
<勝手脱線編>
生産性に対する自分なりの想像をしてみます。
運送業をするのに30㎏の荷を背負って60㎞の距離を運べば、それは時速5kmで12時間を要する重労働。自分は精いっぱい目の前の仕事を頑張っている、と感じて当然です。他方、3トントラックで運べば1.5時間ほどの時間で100倍の量を運ぶことになります。こうした差が生産性であるなら、どのように生産性を高めればよいでしょう。もちろん、コツコツと時間をかけて到達するのも一つの道です(*)しかしながら、今、何とかしなければ、という側面もあるはずです。
上の事例では、生産を高めるためには、トラックを購入したり、運用において、集荷・ルート・配送などをトータルにマネジメントするシステムも必要になるはずだ、などと思われます。つまり、生産性を高める手段を獲得するための財と、運用するためのシステム・ノウハウなどが必要と考えられます。最近では「デジタル化」も一つのキーワードとされています。
これらをそれぞれに異なる業種・あるいは事業所ごとに適切に支援していけることが、国にできることか、と思われます。
政策イメージは資金の貸与・供与/助成と生産性改善のためのプロセスの支援・チームの派遣かもしれません。この先、現在行われている取り組みを俯瞰しながら検討していきます。
(*)佐川急便の創始者、1922年生まれの佐川清氏は1957年に自転車を使って妻と二人で操業したといわれています。9年後の1966年に株式会社として「佐川急便」に改組されました。その後も日曜集配などの迅速な配達や運転手の集金担当など運送業の新たな手法で高収益を上げ、各地の運送業者の吸収合併や新会社の設立で全国進出を図り、1977年に全国ネットワーク網を完成させたといわれています。2024年3月の年間営業利益は892憶円、2022年には1557億円となっています。2022年は1957年から65年後となります。(SGホールディングスHPなどから)
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