「実例、中間的専門機関の形」事例をみる前に
- makiyama@allgovern.com
- 2月16日
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第6回
科学技術は世界で共通の文化いわば「人類の共通言語」です。科学の発展は人類が共有する文明の遺産であり、科学技術の発展を基盤に生産された様々な道具・産物は、世界中に広まり、人々に広く共有され、豊かさや社会それ自体を大きく変化させる力をももちます。
政治は国際社会・外交という側面がある一方で、国内政治の仕組みや国内で運用される法律はそれぞれの国の事情、国民の意思によって千差万別です。主権のもとに多くの要素・形式がそれぞれの国で異なっている状況で、その政治が国民の一人ひとりの幸不幸を大きく左右する影響を持つことは言うまでもありません。
日本、中国、サウジアラビア、米国、など、誰もが知る国々において、政治の機構はそれぞれといえます。細部だけでなくときに大きな枠組みも一様ではありません。
(中国:共産党による一党独裁政治、サウジアラビア:絶対君主制・政教一致、米国:大統領制 など)
差異を生じるのは、どう法律を定め、どのように運用するかが、国民あるいはそれぞれの国家に委ねられてきたからです。
とはいえ、政治も人類共有の文明の一領域であり、それぞれの国の政治体制のあり方は互いにどのような方法をとっているかの影響がそれぞれに及んで、人類としてはどのような方向に進んでいるのか、相互に発展の刺激をし合うということ、世界の広い範囲で共有される政治理念や倫理観も多くあります。自由・平等など政治における基本的人権に対する考え方などです。
そしてまた、政治制度の共有が行われる場面として例えば欧州連合(EU)のようにさまざまな事柄について同じ基準を複数の国が共有することで共同体を形成する場合もあります。(EUの現状について後に参考に掲載しています。)
現在、日本を含む世界190か国以上が国連(国際連合)に加盟しており、国連と「内政不干渉」(内政干渉は他国の政治・外交に口出ししてその主権を侵害・束縛すること)との整合について「『特定の国の人権問題は、その国の内政問題ではあっても、国際社会の関心事でもあり国際連合がこれに関わることをさまたげられない』という考えが広く受け入れられるようになったとされ、この考えは、1993年オーストリアのウィーンで開かれた世界人権会議で採択されたウィーン宣言および行動計画で、『すべての人権の伸長及び保護は国際社会の正当な関心事項である』と確認された」といわれます(ヒューライツ大阪HP)(世界人権会議 ウィーン宣言および行動計画 1993年6月 国際連合。この中で「人権:人類の共通言語」とされています)。日本の外務省は以下のような立場を表明しています。
I 日本の基本的立場
国連憲章第1条は、人権及び基本的自由の尊重を国連の目的の1つとして掲げ、また、1948年に世界人権宣言が採択されるなど、国連は設立以来、世界の人権問題への対処、人権の保護・促進に取り組んできています。日本は、アジアでの橋渡しや社会的弱者の保護といった視点を掲げつつ、国連の主要人権フォーラムや二国間対話を通じて、国際的な人権規範の発展・促進をはじめ、世界の人権状況の改善に貢献してきています。
国際社会の人権問題に対処するにあたっては、日本は以下の諸点が重要であると考えています。
(1)人権及び基本的自由は普遍的価値であること。また、各国の人権状況は国際社会の正当な関心事項であって、かかる関心は内政干渉と捉えるべきではないこと。
(2)人権の保護の達成方法や速度に違いはあっても、文化や伝統、政治経済体制、社会経済的発展段階の如何にかかわらず、人権は尊重されるべきものであり、その擁護は全ての国家の最も基本的な責務であること。
(3)市民的、政治的、経済的、社会的、文化的権利等すべての人権は不可分、相互依存的かつ相互補完的であり、あらゆる人権とその他の権利をバランス良く擁護・促進する必要があること。
(4)「対話」と「協力」の姿勢に立って、国連等国際フォーラム及び二国間対話等において、日本を含む国際社会が関心を有する人権問題等の改善を促すとともに、技術協力等を通じて、必要かつ可能な協力を実施すること。
II 人権の主流化
2005年3月、アナン事務総長の報告書(「より大きな自由を求めて」)が発出され、同報告書の中でアナン事務総長は、国連活動の柱である開発・安全・人権の密接な関連性を踏まえて、国連の全ての活動で人権の視点を強化する考え(「人権の主流化」)を提唱しました。同年9月に開催された国連特別首脳会合では、同報告書を基礎に成果文書がとりまとめられ、国連改革の一環でもある「人権の主流化」の重要性を再確認し、その後、2006年3月には、経済社会理事会の下部組織であったそれまでの人権委員会に替えて、国連が世界の人権問題により効果的に対処するために人権理事会が創設されたほか、国連人権高等弁務官事務所の機能強化、国連民主主義基金の設立等をはじめ、国連において様々な取組が進められています。
(外務省HP、太字・下線は筆者)
<参考>
1 欧州連合(EU:European Union)の概要
欧州連合条約に基づく、経済通貨同盟、共通外交・安全保障政策、警察・刑事司法協力等のより幅広い分野での協力を進めている政治・経済統合体。
経済・通貨同盟については、国家主権の一部を委譲。域外に対する統一的な通商政策を実施する世界最大の単一市場を形成している。その他の分野についても、加盟国の権限を前提としつつ、最大限EUとしての共通の立場を取ることで、政治的にも「一つの声」で発言している。
2 加盟国(27か国)
アイルランド イタリア エストニア オーストリア オランダ キプロス ギリシャ クロアチア スウェーデン スペイン スロバキア スロベニア チェコ デンマーク ドイツ(加盟時西ドイツ) ハンガリー フィンランド フランス ブルガリア ベルギー ポーランド ポルトガル マルタ ラトビア リトアニア ルーマニア ルクセンブルク(英国は2020年1月31日を以てEUを離脱)
3 総面積
412万平方キロメートル(Eurostat)(日本の約11倍)
4 総人口(2023年)
4億4, 838万人(Eurostat)(日本の約3.6倍)
(外務省HP)
このように主権や人権の関わる政治も人類の共通言語のひとつです。次回以降では、海外にみる中間的専門機関に相応な具体的な事例を取り上げます。初回は英国HFEA(Human Fertilisation and Embryology Authority ヒト受精・胚委員会)です。世界で最初の生殖補助医療の管理機関として設立されました。社会においても体外受精の妥当性や倫理性、安全性などが議論になっていた状況において、関連の法律(Human Fertilisation and Embryology (HFE) Act、1990年)と当該機関との成立により、それまで産科婦人科学会によって自主的に行われていた管理業務が公的制度に移行することとなり、それ以降、当該分野の施策の策定から監視、許認可など一元的に管理に当たる機関として機能しています。
生殖補助医療は1978年7月25日に英国で世界で初めて体外受精で女児が誕生して以来、日本では1983年(東北大学病院)の最初の事例以降、2021年には69,797人が生殖補助医療により誕生しており、これは全出生児(811,622人) の 8.6%に当たり、約11.6人に1人の割合になります。(厚生労働省) 2022年4月からは体外受精を含む基本治療が広く保険適応の診療となるなど、現在では生殖補助医療はごく身近な医療となっています。
本ブログでは「中間的専門機関」を政治機構の一形態として示しています。この機構が実際にどのように機能し得るのかを考えるに当たり、諸外国に眼を向けると、既に想定される組織に相応の事例を見ることができます。中間的専門機関として想定される機関の核となる要素を備え、参考になると考えられる機関・制度です。本稿は従前(2004年~2009年)行われた科学技術に係る社会的ガバナンスシステムについて実施された調査研究プロジェクトの中で取り上げた(於・旧文部科学省科学技術政策研究所)3つの機関の事例から要約して事例を紹介します。ただし、これら事例における情報は調査研究当時の情報に基づいていて、個々の組織の現状についてその後の変遷は必ずしも付加・更新されていないため、現在の姿とは部分・項目によっては異なる可能性があります。事例としては有益ですが、この点は御留意ください。
(次回へ続く)
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